オンラインカジノを巡っては、「海外にサーバーがあればOK」「プレイヤーは罰せられない」という噂が根強い。だが、日本の刑法や各種特別法が想定する枠組みを整理すると、安易な参加が重大な法的・経済的リスクにつながる実情が見えてくる。ここでは、違法性の評価軸、よくある誤解、摘発の傾向と実務上のポイントを、制度面と事例面から立体的に掘り下げる。
日本の賭博規制とオンラインカジノの位置づけ
日本の刑法は、原則として賭博行為を禁止している。具体的には、刑法185条の賭博罪が単純賭博を、186条がより重い常習賭博や賭博場開張図利(いわゆる胴元・場の提供)を処罰対象とする。賭博性の判断は「偶然の勝敗に財物や財産上の利益を賭ける」構造にあるかが基準で、オンライン上のルーレットやスロット、ライブディーラーなども、射幸性と対価のやり取りがあれば賭博該当性が問題となる。
一方、競馬・競輪・競艇・オートレースや宝くじ、スポーツくじは、それぞれの特別法に基づく公営競技として例外的に許容されている。ここにオンラインカジノの公的な許認可制度は存在しない。IR整備法で将来、国内カジノが限定的に開業しても、その枠組みは厳しい入場管理・範囲規制を前提としており、一般的な海外事業者のサイトを使ったオンライン賭博を包括的に解禁するものではない。
「海外ライセンスがあれば日本でも有効」との見解は法的根拠を欠く。違法性の判断においては、通信を介した賭博行為がどこで行われたか(行為地)が焦点で、日本からアクセスし、日本の居住者が資金を拠出する以上、日本法の射程に入るという理解が実務で一般的だ。運営側が海外サーバーを用い、運営許可を持っていたとしても、それはその国の制度上の話に過ぎず、日本国内の刑法上の評価を免れさせるものではない。
また、オンラインでの賭博は匿名性・即時性が高く、重大化しやすいとされる。警察の広報・啓発でもオンラインカジノは原則違法と明確に位置付けられており、実際に関連する摘発が継続している。制度のグレーさに期待するのではなく、国内の禁止原則を出発点として理解することが欠かせない。
よくある誤解と見落としがちなリスク
第一に多い誤解が、「少額ならセーフ」「個人の遊びは処罰されない」というものだ。刑法は賭博の成立自体を問題にするため、金額の大小は本質論ではない。もちろん、処分の重さや運用上の優先度に影響する可能性はあるものの、「少額だから違法でない」という理屈は成立しない。繰り返しや高額化は常習賭博の評価を招きうる点にも注意が必要だ。
第二に、「海外ライセンスや暗号資産を使えば安全」という神話がある。海外許認可は日本での適法性を担保しないし、暗号資産やプリペイド等の決済を使ったとしても、賭博該当性や資金の流れに関する法規(犯罪収益移転防止、無登録の送金スキームなど)との関係が問題となりうる。加えて、入出金の遅延やアカウント凍結、本人確認情報の外部流出といった実務的なトラブルも少なくない。勝てば税務リスクが生じ、負けが続けば資金ショートと負債増大のダブルパンチとなる。追い詰められたときは、こころの相談窓口などの公的支援も検討したい。たとえば、オンラインカジノ 違法のようなキーワードで検索して情報を読み込むうちに不安が高まった場合でも、専門の窓口は心理面のサポートを提供している。
第三に見逃されがちなのが広告・紹介行為のリスクだ。アフィリエイトやSNSでオンラインカジノへ誘導し、報酬を得る行為は、状況によっては賭博行為を助長する関与とみなされ、賭博場開張図利に準じる重い評価や幇助の問題が生じる可能性がある。軽いノリのレビュー投稿や「勝ち方」を装った投稿が、法的関与の証跡として把握されることもあるため、宣伝・送客に触れる行為はハイリスクだと認識すべきだ。
近年の摘発事例と実務から読む「どこが危ないのか」
近年の動向で目立つのは、国内のマンションや雑居ビルの一室に端末を並べ、海外サイトにつなぐ「店舗型オンラインカジノ」の摘発だ。運営側は「海外サーバーだから合法」などと説明しがちだが、実務上は、場を設けて利益を得る構造が明白で、賭博場開張図利での立件が相次いでいる。入店した客側も賭博罪に問われ、略式命令での罰金や、事案によっては前科化という重い帰結に至るケースが報じられてきた。
純粋に自宅から個人でアクセスする形態でも、摘発はゼロではない。捜査のフックは、決済の痕跡やSNSでの活動履歴、違法店舗と共通のアカウント・端末情報など多岐にわたる。とりわけ、出金トラブルからのクレーム、資金決済に絡む不正検知、闇バイト経由の口座貸し・名義貸しの発覚が端緒となる例は珍しくない。こうした経路で実態が浮かび上がると、単発利用で済ませたつもりでも、頻度や金額、紹介行為の有無などを総合して違法性が評価されやすい。
判例・裁判例ベースで見ても、海外事業者の許可有無やサーバー所在地は免罪符にならず、「日本国内の利用者が日本から参加し、金銭その他の財産上利益を賭した」という事実が重視される。さらに、インフルエンサーやウェブ媒体がオンラインカジノに読者を誘導して対価を受け取るスキームは、広告主・媒体側の責任が問われる余地があり、表現の自由の範囲にとどまらない危うさがある。実務的には、常習性や関与の深さ、収益の規模、未成年への波及、反社会的勢力との接点といった要素が量刑・処分判断に影響する傾向がうかがえる。